『THINK AGAIN』(アダム・グラント)(◯)
『GIVE&TAKE』『ORIGINALS』で有名な著者の最新刊です。本書は、思い込みを手放し、既存の考えを新たな観点から見つめ直すことがいかに大切か。発想を変えるための「知的柔軟性」について考察する一冊です。新たな考えを受け入れ、周りの人に再考することを促す方法を掘り下げ、生涯を通じて学び続ける社会や共同体を創造する方法についてまとめられています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯自分を疑うという最強・最大の知性
・過信サイクル
自尊心→確信→確証バイアス&望ましさバイアス→是認→自尊心
・再考サイクル
謙虚さ→懐疑→好奇心→発見→謙虚さ
◯能力の過大評価・過小評価から生じるもの
・アームチェア・クォーターバック症候群
あたかもフィールドにいる監督より知識があるかのように、あれこれ口を挟んだり、ゲームの流れを批判したりする人。能力を遥かに上回る自信を持つという心理状態。
・インポスター症候群
優秀であるが自信に欠ける。
→人は能力が欠如しているとき、自信過剰になる傾向がある。素人は自信がないが、自信が募ると過信するようになる。人が自信過剰になりやすいのは、ど素人からワンステップ進み、アマチュアになったとき。
◯あなたの考え方を支配する内なる独裁者
・私たちの頭の中には小さい独裁者がいて、真実が思考に流入するのを制御しているかのよう。心理学ではこれを「トータリアン・エゴ(全体主義的エゴ)」という。この内なる独裁者が特に大活躍するのは、人格や知識が否定されたり侮辱されたりして、アイデンティティが危機にさらされたとき。
・固執を分離するには2つの方法が有効
①過去の自分と現在の自分を分離させること
②自分の意見や考えを自分のアイディンティティから分離すること
◯挑戦的なネットワーク
・協調的な人たちは、周囲の人を励まし、熱心に応援し、大きな応援ネットワークを生み出すことができる。しかし私たちに再考を促してくれるのは、別の種類のネットワーク「挑戦的なネットワーク」だ。
・挑戦的なネットワークの理想的なメンバーは、非協力的な人。というのも、非協力的な人こそ、思い込みを手放し、発想を変えるために、これまでのやり方や不文律に対して臆することなく疑問を投げかけるから。
◯人は曖昧さを嫌う〜バイナリー・バイアス〜
・複雑に関連した事象を2つのカテゴリーに分けることで単純化し、明確性、認知的閉鎖(問題に対して確固たる答えを求め、曖昧さを嫌う欲求)を手に入れようとする。
・バイナリー・バイアスの好ましくない傾向への対処方法は「複雑化」。
・ほんの少しの複雑化で、過信サイクルを破壊し、再考サイクルを稼働させることができる。そうすると人は、より謙虚になって自分の知識の浅さを認め、自身の主張を疑問視し、好奇心のアンテナを張って新しい情報を集めるようになる。
◯アンラーニング
・小学校で科学説を習った場合、その誤った知識をのちのライフステージで修正するのは難しくなると研究は示している。「反直感的な科学的概念を学ぶ事は、第二言語を流暢に話せることになることにも似ている」と心理学者のデポラ・ケレメンは述べている。
・どちらも歳を重ねるごとに習得が難しくなり、断片的な指導や不定期な練習では決して究めることができない。
・子供達に必要なのは「アンラーニング」(誤った知識や固定観念を捨てること)を習うこと。とりわけ「どのような原因と結果が働いているか」というメカニズム(体系・仕組み)についてであればなおさら。
・歴史教育の分野では、近年、正しい答えが一つではない問いを投げかけていこうという傾向がある。
◯完璧な論理と正確なデータだけでは、人の心は動かない
・良いディベートというのは、戦いではない。勢力争いでもない。綱引きでは、強く綱を引けば敵を自分の領域に引き込むことができるが、ディベートは綱引きのようには運ばない。
・良いディベートは、いわばダンスだ。相手もあなたに同調すれば、双方がリズムに乗ることができる。
400ページ超のボリュームのある本書ですが、「どうやったら発想を変え、思い込みを手放せるのか?」という問いを立てて、気になる章から読んでいくと全体が早く把握できるように気がします。今回私は、最終章→第1章へと遡りながら読んで、最後に線引き箇所をサラッと前から順に読んで、全体把握に努めました。